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最高裁判所第二小法廷 昭和43年(し)53号 決定 1969年2月17日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、別紙特別抗告申立書のとおりである。

抗告理由(一)について

所論は、憲法三一条、三三条違反をいうが、記録によれば、原裁判所は、単に、勾留請求却下の裁判に対する検察官の準抗告により、被疑者につき刑訴法六〇条所定の要件の存否を判断して原決定および勾留の裁判をしたものであることが明らかであつて、所論被疑者の身柄拘束の有無および適否が、ただちに原決定および勾留の裁判の効力に影響を及ぼすものとはいえないから、所論はその前提を欠き、適法な抗告理由にあたらない。

抗告理由(二)について<省略>

抗告理由(三)について<省略>

よつて、刑訴法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

弁護人高橋勝夫の特別抗告申立趣意

申立の趣旨

被疑者千葉仁二に対する仙台地方検察庁検察官が申立てた勾留請求却下決定に対する準抗告についての仙台地方裁判所の裁判を取消す。

仙台地方裁判所第二刑事部裁判長裁判官細野幸雄が、右被疑者に対し、昭和四三年六月一二日なした勾留の裁判を取消す。

との裁判を求める。

申立の理由

一、事件の経過

(1)  被疑者千葉仁二は、昭和四三年五月一七日、仙台地方検察庁検察官から逮捕状により逮捕された。同月一九日、仙台地方裁判所へ勾留請求、同月二〇日勾留状が発せられ、同月二八日、同年六月七日まで勾留が延長された。(疎一号証)逮捕、勾留の被疑事実の要旨は、「被疑者は、宮城県土木部職員斎藤誠に対しその職務に関して、昭和四〇年一〇月一六日頃、仙台市本櫓町一七番地「北州」において、現金金三万円を供与し、更に金九、九三三円相当の酒食をもてなして贈賄した。」というものであつた。

(2)  被疑者は、右逮捕に先立つ任意捜査の段階で、すでに右被疑事実について、自供していたので、逮捕、勾留された後は、もつぱら別件について捜査をうけていた。

別件の容疑事実の要旨は、「被疑者は、菅原万、高橋敏郎と共謀して、仙台市建設局長菅原文哉に対して、その職務に関し、昭和四一年四月下旬頃、仙台市建設局長室で、現金金五〇万円を供与して贈賄したものである。」であつた。

被疑者は、昭和四三年五月二二日頃から、勾留満期の六月七日まで、もつぱら右容疑事実のみについて取調べを受け、すでに数通の司法警察員調書並びに数通の検察官調書を作成されている。

その証拠には、同年五月二四日菅原万、高橋敏郎、五月二六日菅原文哉が夫々右容疑事実で逮捕された。又仙台市役所をはじめとして、各所が捜索を受け、冬数の関係者が参考人として取調べられた。(疎二号証)

(3)  被疑者は、昭和四三年六月七日仙台地方検察庁より仙台地方裁判所ヘ勾留のまま、勾留事実を公訴事実として起訴された。同月八日弁護人より保釈請求、仙台地方裁判所は、同日保釈保証金を金四〇万円として保釈を許可した。(疎三号証、疎四号証)

保釈を許可されたのは同日午後三時半頃であつたが、検察官は、直ちに釈放指揮をとることなく、右菅原文哉に対する現金金五〇万円の贈賄を被疑事実として、新たに逮捕状をとり、同日午後七時にいたり、釈放指揮をとるとともに、宮城刑務所を出所した被疑者を、その門前で即時再逮捕した。

同月一〇日午後仙台地方検察庁検察官より、仙台地方裁判所へ勾留請求があり、同月一一日午前、裁判官竹沢一格は、被疑者に対し詳細な勾留質問を行ない、勾留請求を却下した。この却下決定は、同日午後零時一五分頃、電話で仙台地方検察庁検察官に告知され、同日午後一時一五分頃同検察官に却下決定書が送達された。

(4)  仙台地方検察庁検察官は、同日午後四時頃、仙台地方裁判所に対し、右勾留請求却下決定に対し、準抗告を申立てるとともに、右申立について裁判されるまで却下決定の執行停止決定を求めた。

同日五時頃、仙台地方裁判所第二刑事部は、執行停止決定を出し、即時検察官に告知し、翌六月一二日午後二時頃、準抗告申立に対し、「原決定を取消す。」との裁判をした。(以下原裁判という)更に第二刑事部裁判長裁判官細野幸雄は、被疑者に対し勾留状を発し、(以下原勾留裁判という)同日午後四時、勾留状は執行された。(疎五号証、疎六号証)

(5)  本特別抗告は、右準抗告に対する裁判(原裁判)とその後に出された勾留の裁判(原勾留裁判)に対するものである。

二、違憲の理由

(一) 原裁判及び原勾留裁判は、令状によらない拘束状態を容認した裁判であるから、憲法第三一条、三三条に違反する違憲無効のもので、取消さるべきである。

(1)  勾留請求に対する却下決定は、即時請求そのものを失効させるので、却下決定の執行停止決定は、裁判としての意味をもたない。

勾留却下決定に対する準抗告は、先行する逮捕状による拘束時間内に決定が出されるときにのみ意義をもつのである。刑事訴訟法は、勾留請求却下決定に対し特別の規定をおいていないのであるから、右のように解釈する外はない。

(2)  逮捕状による拘束時間以内に勾留状が発せられないとき本来令状によらない拘束状態が出るのである。しかし、刑事訴訟法は、逮捕状による逮捕時間内に勾留請求がなされたときに限り、勾留の裁判がなされるまで、特に、勾留請求に対して拘束することを認めているのである。

従つて、勾留却下決定が発せられ、そのときすでに逮捕状による拘束時間が経過しているならば、もはや被疑者を拘束する法的根拠は全くなく、違憲法拘束になるのであり、速やかに被疑者を釈放しなければならない。

これは憲法第三一条、第三三条の精神である。

(3)  本件について、被疑者は仙台地方検察庁検察官から、昭和四三年六月八日午後七時逮捕状を執行されたので、同月一〇日午後七時以後逮捕状による拘束は許されない。六月一〇日午後、勾留請求がなされ、同月一一日午後零時一五分頃、却下決定が出たのであるから、それ以後被疑者を拘束する法的根拠は、全くなく、違法に被疑者を拘束したものである。

同日午後五時頃に却下決定の執行停止決定が出されているが、この裁判が何らの意味を持たないこと前述のとおりである。

同月一二日午後二時頃原裁判と原勾留裁判がなされたのである。しかし、すでに被疑者は、昭和四三年六月一一日午後零時一五分以降、憲法第三三条、第三一条によつて何人によつても拘束されることはないのである。

しかるに、原裁判と原勾留裁判は、右憲法第三三条、第三一条に違反する状態を容認して、被疑者を拘束する旨の裁判をしたものであるから、憲法第三三条、第三一条に違反し、無効であり、取消を免れない。<後略>

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